横倉山自然の森博物館には、水庭と呼んでいる面積およそ470㎡の水面が博物館を囲むように広がっています。深さは15㎝くらいで、コンクリートで固められた4段のマスに、石灰岩が敷き詰められています。溜まっている水は循環していて、一番下の段の出水口から濾過槽に流れ落ちた後、ポンプを使って地下の配管を通じて一番上の段の床から湧き出すようになっています。博物館のまわりに植えられた木々が大きくなり、毎年多くの落葉が水庭に入り込んでいます。今の水庭は、まるで林の中の泉のようです。
春から秋にかけての期間、水庭を見ていると、たくさんのトンボが飛び、壁にはヤゴの抜け殻が付いています。私は、この水庭にどんなトンボがどれくらいいるのかを知りたくて、令和2年4月17日から、博物館に出勤したら仕事を始める前に水庭を見回って、壁についているヤゴの抜け殻を集め始めました。その結果、令和3年4月16日までの間にギンヤンマ、シオカラトンボ、コシアキトンボ、ベニトンボなど4705個の抜け殻を集めることができました。私がお休みで見回れないときや、私が見つける前に水に落ちてしまう抜け殻もあったと思いますので、それらも合わせるとこの一年間で5000頭くらいのトンボが博物館の水庭から飛び立っていったのではないかと思います。集めた抜け殻は、大きな瓶に詰めてとってあります。
水庭ではトンボの他にも貝類、両生類、魚類など多くの生きものが暮らすようになりました。横倉山は地形が急なために、池や大きな水たまりがありません。博物館の水庭が水の中の生きものたちの生息環境となり、横倉山の生態系にとって重要な場所となってきました。
昨年の夏。この水庭の大掃除がおこなわれました。石灰岩を取り除き、水を抜き、たまった落ち葉を取り除かれ、水の中の生きものたちにとっては、環境の大変動が起こりました。掃除が行われる前に、 水の中の生きものたちを救い出すプロジェクトを、自然観察会「横倉山の生きもの調べ『水の中の生きもの』として、2021年6月26日(土)と27日(日)に行いました(有志による救出会はその後も数日行いました)。参加者の皆さんが長靴を履いて、網とバケツを持って水庭に入り、生きものたちを捕まえて、避難場所となる越知町内の別の人工池へ移されました。
掃除が終わり、水庭は見違えるほどきれいになりました。来館されるお客さんたちも「きれいになっていいねえ。」、「この建物は新しいのですか?」などの声が寄せられています。
冬を越え、春が来て、初夏となった今、博物館の壁面には、ヤゴのぬけがらはありません。2021年秋から2022年春にかけては、トンボたちにとって試練の時期となりました。果たして、今年の夏にトンボたちはまた水庭で卵を産んでくれるでしょうか?
トンボたちの様子は変わりましたが、カエルとイモリは早くも戻ってきています。ヤマアカガエルの産卵が2月12日に確認され、シュレーゲルアオガエルとニホンアマガエルの合唱が3月に始まりました。ツチガエルはまだ鳴いていませんが、水際にはたくさん座っています。アカハライモリも水庭の落葉の下に潜んでいます。
大変動が起きた水庭の環境、これからの変化を見つめていきます。